葬儀をめぐるトラブルがあとを絶たない。特に最近は、「安さ」「簡素」のみを強調する葬儀社がでてくるなど、葬儀の姿が以前とは異質なものになりつつある。葬儀を終え、「こんなはずではなかった」「想定外の出費を迫られた」といった思いを持つ遺族が少なからずいるのが現実だ。
「大切な人との別れ」は、だれもが人生で経験する。あたたかく、丁寧で、費用も明朗な葬儀で故人を送るには、どのような点に気を付けたらいいのか――。経済産業大臣認可団体で、創立から70年近い歴史を持つ「全日本葬祭業協同組合連合会」(全葬連)の専務理事、松本勇輝さんに、「心を込めた葬儀」と「トラブル回避」のポイントを聞いた。
「安さ」ばかり強調、トラブル多数
―葬儀をめぐるいろいろなトラブルが発生していると聞きます
「当初予定した代金よりも、想定外の追加料金がかかった」「値段ほどのサービスがなかった」といったトラブルが増えています。国民生活センターに寄せられている葬儀サービスについての相談件数は2018年が622件、19年632件、20年683件(国民生活センター調べ)と年々増加しています。
また、全葬連消費者相談室には、全葬連に加盟していない葬儀社に関するトラブル相談が多く寄せられるのですが、国民生活センター同様に、追加料金などに関する相談が多い傾向にあります。
―トラブルの背景にはどのような問題があるのでしょうか?
「安さ」だけを売りにした「葬儀仲介業者」が登場してきていることが一因だろうと思っています。これらの業者はインターネットやテレビCMなどで盛んに宣伝をしていますが、この業者が実際の葬儀をするわけではなく、葬儀社から手数料をとったうえで提携している葬儀業者に葬儀を任せるわけです。高いところでは手数料が3割程度にまでいっているところもあります。(全葬連調べ)
通常であれば、宣伝しているような安い値段では、いい葬儀はとてもできません。10万円ほどの葬儀プランで、3割近くが仲介手数料だとしたら、残りの額でどのような葬儀ができるでしょうか。
だから高額な追加料金が発生してしまうケースが出てくるのです。仲介業者のなかには、安さだけを強調するあまり、追加料金に関して告知が不適切だったとして、消費者庁から課徴金納付命令を受けたところすらあります。
残念ながら一部の葬儀社は「葬儀への経験や知識が足りない」「見積もりがいい加減」というのが現実です。あまり知られていませんが、葬儀社というのは行政への「認可証」も「届け出」もなく、誰がいつでも開業できてしまうのです。行政や業界団体の目が届かないところで、一部の業者が「安さ」のみを強調した宣伝・広告をしているといった問題もあります。
「安さ」ばかりを宣伝したプランは、葬儀の「質の劣化」につながりかねません。そんな落とし穴があることを、もっと多くの人に知ってもらいたいと思っています。それがトラブル回避にもつながると思います。
―とはいえ、「家族葬」など、「小規模」で「安価」な葬儀を選ぶ人が、年々増えている現実もあります。
家族葬が認知を広げた背景には、コミュニティーの変化があります。核家族化、少子化によって遺族、親族の人数が少なくなりました。また、高齢化によって、喪主世代までが退職を迎えているという現実は、葬儀への参列者の減少につながっています。
とはいえ、故人の生前での交友関係などを無視して、極端に参列者を絞り込んだ家族葬をしてしまうのはどうかと思います。葬儀後に故人と縁のある人が、「お線香をあげたい」といって次々と弔問に訪れてくれたり、「なんで私に知らせてくれなかったのか」と不満を持ったりといったトラブルも現実に発生しています。
極端に値段や規模ばかりに気をとられ、故人と交友のあった人や親せきに「来ないで欲しい」と伝えるケースすらあるのが現実です。それが故人のことを思った葬儀であるとは思えません。──記事へ続く
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