悪口

他者の悪口、陰口が言えてしまう原因の煩悩。

 人は友達どうしでからかいあったり、人を小馬鹿にする様子を面白いと感じるようになっている。拙僧はそれがちょうどライオンがじゃれ合っている姿のように思えて、社会性動物の本能の中にもともとあるなかなと思っている。

 ゴリラによく似た古い友人がいる。お寺の子ども会を手伝ってくれるので大切な友達なのだが、古い仲なのでついついからかってしまう。

「──そう、あの映画なんちゅう名前やったかな、もういっぺん見たいねん」

「ほほう、おまえが映画を見たいとはな。やっぱり『キングコング』か?」

「ちゃうわ!」

「友達の活躍を見るのは勉強になるからな。殊勝なこころがけやな」

「ちゃうて言うてるやろ! あんなでっかい友達おらんわ!」

「あれか、やっぱり通天閣登りたいんか?」

「そうやな! 確かに登るならアベノハルカスやのうて通天閣かな! なんかもう登ってみたい気がしてきたわ!」

「おまえやったらできるよ。できるできへんやあらへん、やるかやらんかや」

「なにカッコいいこと言うてるねん。確かにそうやけど、出発が間違ってるからな!」

 ──この様にじゃれ合う程度の、相手を小馬鹿にする程度の悪口は面白いし、コミュニケーションの一つだろう。

 

 しかし困ったことに、相手や対象を痛烈に批判したり、陰口や悪口を悪意を込めて言う煩悩【悪口】も身に備わっている。それは大体相手に聞こえていないところで繰り広げられる。

 

 ──拙僧は肌が弱く、いつも困っている。

 冬はひび割れ乾燥肌、寝てる間に掻かないよう手袋する。夏は痛くて痒い汗疹、水虫、カンジタで、掻いて肌を傷つけないようにツメはとても深爪して丸く研磨する。我が皮膚下のヒスタミンはいつも大暴れ。ちょっとした刺激で痒くなる。

 

 月参りにて、あるおばちゃんとどこの医院がいいか話題がはずんだ。こういう話題は大好物である。

 

おばちゃん:

「あそこの皮膚科は、医者がとても無愛想だから空いててええで」

 しばらくして、

拙:

「先日教えてもらった病院、行ってきました。なるほど確かに無愛想でした。でも空いていたので早く済んで良かったです。ありがとうございました」

おばちゃん:

「実はこないだ、あたしも行ったのよ。そしたらその時はめっちゃ混でてびっくりした。あんな医者でも、混む時あるんやなぁって」

拙:

「へー、そうなんですか。僕としては、空いている方がいいな。いやー、ぼくらだいぶしつれーなこと言うてますね」

おばちゃん:

「ほんまやケラケラケラ」

 浅ましい自己が可笑しくてケラケラ笑う拙僧とおばちゃんであるが、お医者様に対して一つも悪いと思っていなかった。

 

 【悪口】(アック)という煩悩は、そのまま、「他人の悪口を言う」という煩悩なのだが、ここには無知無明が起因する。その人物がどれほどの人物か、浅くしか知らないのに、表面だけ見て悪口や陰口を言えてしまう業が、この身に働いている。

 勝手な想像だが、そのお医者は医療にて人を癒やすと志を立てて、大変な猛勉強をして医者になられた立派な方であるはずだ。それをうわべだけみて笑いものにしてしまう、全く困った煩悩だ。ヒスタミンの様に、見えぬがしっかりはたらいている。ヒスタミンにはお医者様から頂いた薬がよく効く。お蔭で私は助かっているのに、よく笑いものにできるなと、仏さまはあきれておられることだろう。そんな我々の煩悩にはどんな薬が効くのか、もう言うまでもない。

※筆者について以外の各エピソードは個人を特定できないように、内容を変更しています。