戒禁取見(かいごんしゅけん)

誤った教えで悟りを開くこと。因とならないものを因であると誤って考え、それをすぐれた考え方だと執着する見。五悪見の一つ。

 2020年五月、新型コロナウイルス蔓延に際して、一回目の緊急事態宣言が発令された時。テレビではコロナ関連の報道の中で、学校や教育の現場をどうするか議論が盛んだった。その中に入学式を4月から9月に変更してはどうか、という話題があった。

 

 月参りにて、とある女子高生に

「きみは4月入学、9月入学、どっちが良い?」

 と気軽に聞くと、

「どうせ、子どもの意見は無視して大人の都合で決まるんでしょ」

 と、なかなか見事に返された。

 ははぁ、うーむ、と考え込んでいると、続けて、

「4月、9月の議論以前に、教育制度を改革してほしい。いじめを隠そうとする学校や教育委員会に従うのは屈辱的だ」

 と続けられて、はぁ~、と感心してしまった。話の要点はズレていったが、若い獅子の咆哮を聞くようで、本当に心地良かった。

「街角にある政党ポスター、『小さな声を聞く力』とあるが、子どもの声や当事者の声を本当に聞いているのか」

 そのとおりやなぁ。自分で「力」があると誇示するのは驕りやね。

「中高と英語勉強してきたが、全然しゃべれるようになれないこの文法ばかり勉強するのに何の意味があるのか」

 そのとおりやなぁ……。曰く、交換留学生のインド出身の友達は、学校で一年日本語を習っただけで、最初からペラペラだそうだ。

「賢さで評価される社会にはでたくない、ずっと学生でいたい」

 でるわでるわ、大人や社会に対する不満。なかなか大した思想家やん、キミそんなこといつも考えているの?と聞くと

「好きなユーチューバーから学んだ」

 という。そのユーチューバーを敬愛しすぎてずっと見ているそうだ。

 

 バイアスに「Google効果」とか「確証バイアス」というものがある。インターネットで自分にとって都合のいい意見だけを確認して、自分の意見は正しかったと、思い込みを強めていく作用である。偏りすぎると、話が聞けなくなって、他の可能性の検討する気もなくなってしまう。

 

 女子高生の母親曰く、「ウチの子は、もうこのユーチューバーしか信じていないんです;;」

 

 家族での会話でも「あのユーチューバーはこう言っている。そのユーチューバーはこう言っている」と親の話よりもユーチューバーを信じるそうだ。そんなものばかり見て信じ込まないで! 世界はもっと広くて色んな意見があるのよ! と諭しても、「世界中の主義主張は、それぞれの立場と都合が主軸にある、損得の潜んだウソばっかり。損得ぬきで語るこのユーチューバーが本物だ」と頑なになっているそうだ。

 我が身にも、同様に、都合の良い意見を尊重し、都合の悪い意見を排しようとする、同じ業が備わっていることを忘れてはいけない。

 

 ちなみにニュースタイプ・論説タイプのユーチューバーは、激しい承認欲求と広告収入を動機にして、時事や政治、問題について、ネットで漁った情報を参考に、事実確認や根拠なく過激に述べている者は少なくない。カッコいいので、若い子は惹き付けられてしまう。少女にこのことを説明しても、聞く耳持てなくなっているだろうから、ストレートに話しては逆効果なのだ。先ず傾聴して、比較対象を遠回しに用意してあげて、他の可能性の検討を自分からするように仕向けなければならない。マインドコントロールを解く手順とよく似ている。

この煩悩と似たようなバイアス……Google効果、確証バイアス

※筆者について以外の各エピソードは個人を特定できないように、内容を変更しています。